「雨」

 どうにか、その男は庇を見つけたようで、そこに慌てて駆け入って上着に付いた雨しずくをばらばらと払いのけている。 ただ、しずくを納得いくまで落としたあとも、なかなか走り出す気にもなれない様子でただ、じっと糸のような雨を見つめている。  朝方から耳に入るようなことは、たいてい雨は降らないという報せばかりだったので傘は持っていない。 持っていようものなら、なにもこんな泥の跳ね上がるような場所で雨やどりをすることもない。  まだ、せめて明るい時間なので仕方ないといった様子で、先程から糸のような雨を目配せしながら見ているのである。

 雨は一向にやむ気配がないばかりか、弱まるまで待つのは阿呆かのように、そして笑うように、次第に強くなっているようであります。   しかし男はそわそわして時計に目を向けて今、走り出す一歩を踏み出そうとしている。   すると、辺り一面が真っ白に反転して、その後すぐ雷鳴の音で鳴く怪鳥の鳴き声が響き渡る。  男が、反射的に庇に飛び退いて、元の位置よりもほんの少しさらに奥入った場所へと移ったのは仕方の無いことである。    男はまた二度、三度と、時計に目をやりながらも、今度は時折枯れた小枝のように繊細に分かれては光る筋を見つめては、また仕方ないといった様子でうんうんとしきりにうなずいているのである。   

 さて、弱まるばかりか、雷鳴まで呼んでしまうようなこの天気では、もうどこにも行けぬといった様子の男でありましたが、それでもその処にあと幾分も居れぬとなったようで、よりによって一番雨の強く、雷の枝の多く、風の業の凄まじい頃合を選んで走り出していったようでございます。 

                      -とり

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